「社長になりたい」とそいつは言った
4月に部署の新入社員の歓迎会があった。
部署の新入社員には私ともう一人同期がいる。積極的に先輩に質問をぶつけるその同期に私は「グイグイいくなあ」と感じていた。話もうまく歓迎される立場でありながらも場を盛り上げるのも得意で私もずいぶん緊張がほどけたのを覚えている。
課長が言った。
「2人はこの会社でやりたいこととかあるの?」
私から聞かれたので「医療機器分野に携わりたい」などと当たり障りないながらも逆に理由を聞きたくなるようなことを答えた。しかし、そんな思惑は見事に外れもう一人の同期の答えにその日の飲み会の話題がすべて吸い取られてしまうこととなる。
「僕は社長になりたいです!」
同期は言った。飲み会の席ではあったものの一点の曇りもなくまじめに答える彼に私は驚愕してしまった。はたして100人を超える新入社員の中で社長になりたいと思っている人は何人いるだろうか?
そのことを部署の歓迎会で今後の目標として公言する人はどれだけいるだろうか?
まだ何にも染まってない新入社員。私だって出世欲くらいはある。しかし社長かと言われればそうは思っていないし、たとえ思っていても公言はしない。言葉に出したほうが夢がかなうと言っても、社長になれない可能性のほうがはるかに高い。数十年後、出世できなかったことをいじられるくらいならまだよいが、課長にもなれなかった挙句まだ自分の限界を直視できないイタい人になりたくない。
だが後で思い返してみると「ああ、出世する人というのはこういう人なんだろうなあ」と感じるようにもなった。
以前読んだこんな本を思い出した。
僕がそうであったように、会社に入った時に「オレはこれから社長を目指すぜ」などと考える新入社員はほとんどいないと思う。けれども、オブラートで包まれたような状態で提示される『会社人生』という名のゲームの ゴールの正体を直視してみよう。それはやはり「社長」になることなので ある。部長や、単なる取締役がゴールだということはあり得ない。社長を 目指して頑張ったからこそ、取締役にもなれる。競走で、はじめから二等 賞を目標にするなどということはあり得ないのと同じである。
和田 一郎. 僕が18年勤めた会社を辞めた時、後悔した12のこと . Kindle 版.
まさにこの本で筆者が言っているとおりである。もうゲームは始まっているのだ。そのゲームに時間と労力をかけ、課金し、ランキング1位を目指しているかどうかが試されている。
数十年後、そのゲームに敗れ「俺は社長なんか目指さず遊んでばっかりだったらなあ」とイタい思いをするのは私の方かもしれない。